騎士と逸れた姫の、臨時の騎士をすると決めた。
ふと顔を上げた先で、姫の瞳から溢れるのは、綺麗な雫。
膝をついて、姫の手を取る。
流された涙を、拭う役目は自分では無い。
本当の騎士の下へ、必ず無事に届けて見せる。
誓いを込めて、その小さな手の甲に口付けた。
朝から誕生日プレゼントを探して、野原を駆け回り、転んでしまった。
あたりが暗くなっても見付からなくて、気持ちが落ち込み、視界が滲む。
その時肩を叩かれ振り返ると、友達が目当ての物を手にしている。
感謝の気持ちを込めて、オレンジの額にキスをした。
両親や友人から、プレゼントと共に贈られた、誕生日おめでとうの言葉。
だけど今日の朝から、あたりが暗くなるまで、その言葉どころか、無邪気な声を聞いていない。
幾らなんでも遅すぎると、迎えに行こうとドアを開ける。
すると外に出た途端、何かが体にぶつかった。
下を見て見えたのは、何時も見慣れた、オレンジの髪の毛。
顔を上げた弟が差し出したのは、四葉のクローバーだった。
泥だらけの体から、今までそれを探していたのだと判る。
プレゼントを受け取ると、不安そうな弟の、頬に1つ、キスを落とした。
目隠しを取った瞳は、自嘲気味に潤んでいる。
白い肌に残る傷が、とても痛々しい。
彼女の唇が紡いだ言葉が、胸の奥に刺さった気がした。
それでも他の誰かに奪われる位なら、この手を染めて、刻み込もう。
痛みを誤魔化す様に、重ねた唇は、今まで感じた事が無いほど甘くて、苦かった。
父親を助けたい。
ただそれだけを胸に、子供には長い道のりを、1人行こうとしていた少年。
自分はいつの間に、そんな純粋さを失くしていたのだろうか?
振り返った少年を抱き上げると、瞼に唇を触れる。
少年が、きょとんと瞳を瞬かせるから、思わず噴出してしまった。
少年に謝りながら、ふと思う。
出来るだけ長く、出来るだけ多く、その純粋さを持ち続けて欲しいと。
久しぶりに見る、花の様な笑顔を見詰める。
あの日、離れ離れになって、危険に1人晒す所だった。
最悪の場合、こうして話す事さえ、出来なくなっていたかもしれない。
改めて、新しい旅の仲間に感謝する。
守れなくなる事が、堪らなく怖い。
どうかずっと幸せでいてくれ。
願うのは、ただそれだけ。
彼女の掌に、神に祈る代わりに、口付けを落とした。
電気が消された部屋の中、ベットの上に、見知らぬ女が腰掛けている。
どうやって入ったのか?(鍵が掛かっていた部屋に)
何時から居たのか?(10分位前まで、確かに誰も居なかった)
女と視線が絡んだ瞬間、そんな疑問は吹き飛んだ。
闇に溶ける様な、黒い髪。
闇を拓く様な、緑の瞳、白い肌。
赤い唇の端が、誘う様に上げれる。
後はもう、落ちるだけ。
差し伸べられた腕を取り、震える唇を、手首に近付けた。
暗闇の中、絹を裂く様な悲鳴が響く。
牙がつき立てられた首筋から、伝った赤が、女の指先を染めた。
それを舐め取るついでに、唇を寄せる。
そのままするりと指を離し、もう物言わぬ体が、地面に落ちた。
女を見下ろす瞳は冷たく、だけどその唇は、楽しそうに弧を描く。
そして次の瞬間には、男の姿は、闇に溶けた。